番外編

最終話『黄昏の落星』

「……」食器の当たる音がし、暗闇から引き戻される感覚にレイズウェルは目を覚ました。  顔を上げ、まだ働かない頭で周りを見渡せば、見慣れた燭台と白いクロスが目に入った。 いつの間にか食事の途中で眠っていたようだ。思えば、最近は大きな仕事が続い…

第10話『黄昏の落星⑩』

夜明けが訪れた。 緩やかな風が暗闇の荒野に流れ、レイズウェル・ルークは重い瞼を上げる。  窓の外に広がる青藍の空には、輝きを失いつつある星々が落ちて、陽が昇るほんの数時間前の青と赤のグラデーションの世界が広がる。今日は晴天、最後の一日がやっ…

第9話『黄昏の落星⑨』

その時。 ガシャン! と皿が割れ、哀れな人形の青い瞳に食い込みかけていた指が止まる。 「リズ!」  驚いたレイズは我に返り、音の方を見るよりも先に父親の手を弾いた。 驚きのあまり、キョトンとしているリズの手を引いて自分の方へ寄せる。  ――…

第8話『黄昏の落星⑧』

されど、少年の儚い英雄物語は続かない。 痩せた貧しい土地で植物が生きられないように、残酷な物語を飾る最後の幕が上がる。リズが感情と愛情を覚えてしまったあの日から、レイズの地獄の日々が始まっていた。 心を持たないはずの冷酷な暗殺者が、愛情と死…

第7話『黄昏の落星⑦』※挿絵に流血表現あり

この日は、枯れた荒野が広がる東の土地にしては珍しく、朝から雨が降りしきっていた。 今日に限ってレイズは体調を崩しており、リズと一緒に行けなかった。  代わりにフラクタがリズの管理者として同行したのも気になっている。 ベッドに入っていたレイズ…

第6話『黄昏の落星⑥』

貴族の子供時代は短く儚い。 リズが目覚めて数か月が経とうとしていた頃。ルークの仕事を目の前で見て怯えていたレイズは、今や片割れの子の管理者としての仕事にも慣れて、残酷な光景も日常のものになっていた。この家における管理者とは、主に暗殺者として…

第5話『黄昏の落星⑤』

次の日、レイズは高熱を出してしまい部屋で寝込んでいた。 混乱していた頭はすっかり冷えており、昨日のことを思い出すと憂鬱になる。  もともと体が弱く、一日のほとんどを寝て過ごしていたのだ。 最近は少し無理をしすぎたな、と自分でもわかっていた。…

第4話『黄昏の落星④』※少々、描写注意。

あの日から二人は、時間があれば兄達の目を盗んで一緒に過ごしている。 リズウェルの首輪は足枷に変わった。 また繋がれてしまったが、レイズウェルを待つあの子はもう逃げようとしなかった。レイズウェルが家事をしていたり、リズウェルが庭園にいないこと…

第3話『黄昏の落星③』

夜中にも関わらず騒いでしまったレイズウェルは、今さらながら父や兄にリズウェルの事をどう説明しようかと頭を悩ませる。 「お前、何で自分で鎖を切るんだよ……なんて説明すりゃいいんだよ」「んん? おマエ?」相変わらず、どこまで話が通じているのかわ…

第2話『黄昏の落星②』

白い雲は緩やかに流れ、荒野の乾いた風は土を巻き上げて舞う。 木の枝に張ったロープを結び、レイズウェルが洗った衣類を干し終えた時、よく知る声が聞こえる。 「レイ」レイズウェルをそう呼ぶのは、一番年上の兄であるエリオだ。 穏やかで物腰柔らかなエ…

第1話『黄昏の落星①』

夜明けが訪れた。 緩やかな風が暗闇の荒野に流れ、ゆるりと冴えていた目を開ける。窓の外に広がる青藍せいらんの空。 輝きを失いつつある星々が落ちて、陽が昇るほんの数時間前の青と赤のグラデーションの世界。女神エリュシオンが、人間と守り抜いたホワイ…