第33話『とにかくぶん殴れ、話はそれからだ!』

 夜の草原は昼間とは違って静かで、風が草を揺らす音と虫の声だけが聞こえていた。

 暗闇の草原を歩く四つの影を照らすのは、レイズの扱う魔法の光だけだ。

 ジークは、頭の上に広がる星空を見て息を吐き出した。

「……なぁ、レイズ。君の家がある東のルーク領はどんな所なんだい?」

「一言で表せば、クソだな」

 ジークとしては気候や領民について聞きたかったのだが、短くアッサリと返したレイズは、頭上に浮かせた炎の明かりを指で遊ばせる。

「ルークは、ホワイトランドの裏側の仕事を担っていると言えば聞こえはいいが、実際は金さえ積めば何でもやるクソ集団だ。仕事として依頼されたら、例え亜人でも雇い主にする」

レイズは苛立ちを吐き捨てるように話す。

「そうなんだな……」

 家族に対する彼の気持ちは、想像よりも根深いものなのだろう。

 何となく、これ以上は踏み込めないと思ったジークは話題を変える。

「リズは無事だといいな」

「ああ、アイツは今、フラクタの管理下に置かれている」

 草を踏みつけ先頭を進むレイズは、後ろの仲間たちを振り返らずに言う。

「フラクタは、最初に当主から薬を投与された俺の兄だ。もとは、あんなイカレ野郎じゃなかった」

 そう言ったレイズの脳裏に、幼い時分に見たフラクタの姿が浮かぶ。

 もともと仲が良かったわけではないが、少なくともあの頃のフラクタは、今よりはまだ人間だった。

「フラクタは、残酷な手段で仕事をすることが多い。それでも、管理下にあるという事は、リズにはまだ使い道があるとみなされているはずだ」

「レイズ……」

 ジークから前を歩く彼の顔は見えないが、不安と苛立ち、何より不甲斐ない自分を責める気持ちが渦巻いているのだろう。

「……俺は、君が一生懸命リズを守っていたことを知ってるんだぞ!」

 彼の下がった肩を叩いたジークは、ニッと笑って言う。

「他の奴らに壊されないよう、君が薬を飲ませていたのだってそう。君の勇気と行動力のおかげで、俺達はリズに会えたんだ!」

 片割れを想うレイズの心は不安定だ。けれど強い。

だからこそ、ジークは彼を仲間だと言ったのだ。

「いやお前、気持ち悪すぎるわ」

 口では悪態付いているが嬉しいのだろう。

 ジークの言葉を聞いていたレイズの、落ちていた肩が微かに上がっていた。

 そんな彼に、ハツが両手を上げて質問をする。

「そうさ、お坊ちゃんが見せたあの薬の成分はなんさ? 見たところ、ケラティス系の神経毒の一種さか?」

「見ただけで一般民にわかるのか?」

 レイズはハツの話に驚き、思わず足を止めて振り返る。

 ケラティスの実を原料とする毒は、幻覚や意識障害などを起こすものであり、薬物を扱う知識人の間ではマイナーながらも猛毒として扱われている。

 レイズが否定しないところを見ると、おそらく当たっているのだろう。

「そうさか!」

 ハツは、自分の想像通りだったことに機嫌よく鼻を鳴らし、頭の後ろで両手を組む。

「成分さえわかれば、解毒剤が作れるかもしれんさ? 薬のことなら、このトリート部隊にお任せってさな!」

「そうか! ハツはよく怪しい薬を作ってるよな、君が他人に興味を持つなんて素晴らしいんだぞ!」

 フフン、と得意げな顔をしているハツを褒めているジークだが、絶妙にけなしている。

 だがもし、本当に解毒剤が用意出来たらリズを助けられるのだ。

「もしそうなら、リズを君の知る昔の姿に戻せるかもだぞ!」

 想像すると希望が湧いてきたジークの足取りは軽い。

 そうだ、と話の途中で思い出したジークは、風で舞うマフラーを押さえながら言った。

「大丈夫だぞ。レイズ、自分を責めなくていいんだ。君は間違ってない」

 レイズが過去の事を後悔していようと、それがあったから今があるのだ。何も恥じる事はない。

「そうさな。お貴族様は大嫌いさが、家族を守ろうとするアンタにはちょっと協力してもいいさ」

 そんなジークに続くハツ。

 いつものように明るいジークと、珍しく他人に興味を持っているハツの二人だが、次のタイミングで言葉が重なってしまう。

「君は弟思いなんだな!」

「妹は大事にするさ!」

 二人がそう言った瞬間、突然の強い横風が襲う。

 ちょうど同時に発せられた言葉を、大きな風音が遮っていき、あまりの強風にジークとハツは坂を転がり落ちてしまった。

 ハツはともかく、ジークにしてみれば坂を転がるのは二回目だったりする。

「おわーッ!」

「なんさこれーッ!」

「は? なんて言った!?」

 激しく揺れる草と風の音で遮られ、話が全く聞こえなかったレイズが二人に聞き返すが、あいにくそれどころじゃない。

 そうこうしているうちに突風が止み、再び元の風が吹いていく。

 まるでタイミングを見計らったかのように吹いた強風は、本当に一瞬だけで静まっていた。

「ワーみんな、大丈夫!?」

 そんな中、アホ達のやり取りを後ろから見ていたシャオロンは、二人を心配する……フリをして駆け寄ってきた。

「こいつ、マジか……」

 もともとシャオロンの正体を知っているレイズは、真顔で目を皿のように細めた。息を切らせて丘をよじ登ったジークは、話の続きをする。

「いたた、シャオロンはどう思うかい?」

「エ? さぁ……亜人も種族によっては性別がナイから、僕にはよくわかんないネ。それより、怪我はナイ?」

 一見、仲間を心配する彼だが、真面目な口調とは裏腹に『何か面白そうだからこのまま放っておこう』という魂胆が見えていたりする。

 強風の主は、人間で遊んでいた。

「もういい……先を急ごうぜ」

 やはりコイツらを連れてきたのは間違いだったかもしれない、とレイズは思ったのだった。

 新しい仲間を囲む弾けた空気はそこで終わり、沈黙が足を進める。

 二時間ほど歩いたところで、草原が途絶えた先に霧立った沼が見えてきた。

 この沼が、豊かな自然が茂る西のミラナ領と、荒廃した大地が広がる東のルーク領との境界なのだ。

「ここから先がルーク領だ。基本的に領民がいないルークは魔物の討伐をしないから、気を引き締めて来るんだな」

 レイズは沼を前にしてそう言うと、全体を照らすように魔法で作り出した光を高く上げた。

 果てが見えない濁った沼の上には何かの植物の大きな葉が浮かんでおり、それ以外には足場はないようだ。

「ここは大昔の亜人戦争の跡地で、この水は特殊な成分が含まれていて体が浮いてこない。だから、今でもその魂が水底を彷徨っていると言われている」

 レイズは後ろの仲間にそう言うと、ゆっくりと慎重に手前の大きな葉に足を乗せ、器用にバランスをとって次から次へ飛び移っていく。

 続いてハツ、シャオロンも身軽に移動していく中、ジークは唇をキュッと結んだまま固まっていた。

「ジーク! はやく来い!!」

「気合だヨ!」

 口々に自分を呼ぶレイズとシャオロンを恨めし気に見たジークは、意を決して葉につま先を乗せた。

「くっ……こうなったら行くしかないぞ……」

 あんなことを言われてしまえば、誰でも怖いだろう。

 慎重に両足を乗せた葉は、ジークの体重でグラグラと揺れてしまい、不安定極まりない。

「ひっ、ひょわっ! うおおぉ……」

 バランスを崩したジークが葉にしがみつくと、水の中に光るものが見えた。

 ジークが恐る恐る足元を覗き込むと、ギョロギョロと水底で何かの目玉のようなものが光っていた。

「アッ、スッゥゥー……」

 意識してしまうと怖さが現実味を帯びてしまう。

 深呼吸をしたジークは、目玉を見なかったことにして心を無にする。

 だが、他の楽しい事を考えようとすればするほど、頭の中に先ほど見てしまった目玉が浮かんでしまう。

 しまいには脳内で村長が現れ、目玉と並び白熱した『魂のふんどしの舞』を披露し始める。

 そうしていると、今度は妄想のフィアが出てきて笑いかけてきた。

「……アイツ、何してんだ?」

 一枚目の葉の上で満面の笑みを浮かべ、フィアを撫でているジークを指さすレイズは、不審者を見るような顔をしていた。

「大丈夫だヨ。これから、わりと見かけるネ」

 何が大丈夫なのかはわからないが、シャオロンは憐れむような目で答えてあげる。イマジナリー彼女、再びである。

 結局、ジークはハツに手伝ってもらって沼を渡り切ったのだった。

 やっとの思いで沼を渡り切ると、次は見渡す限りの大きな岩場に出た。

「ここを抜けた先にルークの屋敷がある。魔物の巣窟を通るから、足音に気を付けろよ」

 そう言って、レイズは明かりにしていた火を消してしまった。

「東のルークは、何でこんな所に住んでるさ……ぶえっきし!」

 ここに来て気温がぐっと下がっているようで、ハツはくしゃみをして睨まれてしまう。

「仕事柄、敵が多いからな。領民や亜人を住まわせれば負担が増える。だからここに住めば、わざわざ魔物に襲われながら来てぇ奴はいねぇだろ」

 声を潜めたレイズは、足音を立てないように進み、その後ろをジーク、シャオロン、ハツの順でついていく。

 自然の雨風で削られた岩場は芸術的な形をしていたり、月に照らされた空洞の中を駆ける小さな影が見えていた。

 おそらく、小型の魔物なのだろう。見つからないように隠れながら進む。

 神秘的にさえ感じる真夜中の荒野に、ぽつんと何か丸いものがある。

 見たところ、眠っているようだ。

「ん? あれ、なんだい?」

「静かに。あれは、名もなき赤子だ」

 ジークが小さな声で話しかけると、レイズは人差し指を口元にあてる。

「大きな人型の魔物さ。ものすごく知能が低いのと、大声で鳴いて他の魔物を呼ぶことからそう名付けられてるさな。耳が異常に発達してるさから、見つかる可能性の方が高いさ」

 背負っていたナイフを抜いたハツは目配せする。

「じゃあ、早めに倒さないとだな」

 ジークはフィアを抜いてレイズを見た。

「やるなら、一撃で仕留めナイと面倒になるヨ」

 シャオロンもあの魔物を倒すことに賛成のようだ。

「倒すには相当な労力と損害がかかる。かといって、このまま通るには危険。そのくせ倒した所で、他の魔物を呼ばれていると考えて……俺は反対だ」

 考え事をしながら話を聞いていたレイズは、ダメだと首を振る。

「それよか、もっと面白いことに使う」

「面白いこと? って何だい?」

 レイズは、ほんの少しズレた眼鏡を指で持ち上げ、ニヤリと不敵に笑う。

 ジークは首を傾げ、ハツやシャオロンも驚いている。

 仲間を正面から見たレイズは、そんな三人を一人ずつ指でさしていく。

「まずクソ爆発頭、お前は囮だ。あれに捕まらないよう、頑張って逃げろ」

「囮さ!?」

「次、クソ亜人。お前はあれをぶん殴ってとにかく魔物を集めさせろ」

「口悪すぎナイ?」

「最後にジーク。お前は……その辺で踊ってろ。邪魔にならんようにな」

「何でだい!? 俺だけ適当じゃないかい……!」

「いいから、俺に従え!」

 口々に反論はあれど、それぞれの能力を考えたうえで作戦を立てているレイズは、軽く咳き込むと暗闇の空に向かって一発の炎の塊を打ち上げた。

 高々と打ち上げられた炎は空で弾け、さながら反撃の狼煙のように煙を上げていく。

 すぐに音に気付いた魔物、名もなき赤子が起き上がり、大きな一つ目が四人を捉えた。

「もっとなんか準備とかねぇんさか!」

「とりあえず、ぶちのめせばいいんだネ!」

 唐突な始まりにハツは慌てて迎え撃ち、シャオロンもそれに続く。

「レイズ! どうするつもりなんだい!?」

 そして、ジークはというと本当に踊っているわけにもいかず、細剣を握ったまま腕を組んでいるレイズに訊ねた。

「俺は勝てない戦いはしない主義でね。どうせなら、先制攻撃といこうか」

 自信たっぷりにそう宣言したレイズは、とても四大貴族のご子息とは思えないような顔をしていた。

 そして、数十分後。

 月夜の荒野を、魔物を引きつれた異様な集団が走り抜けていく。

 先頭はもちろん、けたたましい雄叫びを上げながら爆走する『名もなき赤子』。その背には、AHOU隊の四人が乗っている。

 レイズの立てた作戦はこうだ。

 まず、ハツが名もなき赤子の注意を引いて狭い岩場へ誘い込む。

 その次に、岩の上で待ち構えていたシャオロンが強烈な一撃を頭に叩き込んで気絶させ、その間に四人は巨体に飛び移る。

 その後、目を覚ました『名もなき赤子』が叫び、他の魔物を呼び出しながら荒野を走って徘徊していく快適(?)な移動方法だ。

 凄まじい振動と爆音の叫び声で耳が痛い。

「れれれれ、レイズ! こここれ、どこにむむ向かうんだい!?」

 舌を噛みそうになりながらジークは訊ねた。

 狂暴な大型の魔物を使って移動するなんて、とてもじゃないが正気の沙汰じゃない。

「こいつは人間の臭いにも敏感だからな。乗ってりゃルークの住処に着くはずだ!」

 答えたレイズ自身も無茶苦茶な事をやっている自覚はあるのか、目をランランと輝かせ半笑いの表情だ。

「目立っちゃ、ダメだった、んじゃないのかい!」

「ここまで来たらド派手にブチかませ! 領地を荒らしてやるわっ!!」

 ジークが聞くが、レイズは話を聞いていないようだ。

(いやダメだこれ、完全にキマってる……)

 そう心の中に落としたジークが足元を見れば、叫び声につられた小型の魔物がわらわらと群がっていた。

 大量の真っ黒い塊が蠢いている姿は、なかなかにトラウマになりそうだ。

 その時、『名もなき赤子』の頭に乗っていたシャオロンが、目の上に手をかざして声を上げる。

「あ、あれ見て! 何か家? ミタイナのがあるヨ!」

「あれは俺んちだ」

「なな、んんだってぇえ!?」

 至って冷静に話すレイズに、たった一言返すだけでジークはこれだ。

 なぜ、みんなこの振動でも平気なのだろうか……。

「それで?」

 乗り物と化している『名もなき赤子』の腕に、ナイフと糸で命綱を取り付けていたハツは険しい顔で唸った。

ここで、もっとも基本的な問題が発生する事となる。

「……これ、どうやって止めるさ?」

「……」

 …………。

 誰一人口を開かず、魔物の叫び声がやかましく響く。

 そう、誰もあとのことを考えていなかったのである!

「うわわわ、レイズ! このままじゃ君の家に魔物ごと突っ込むぞ! どうするんだい!?」

 真顔で乗っていたジークは我に返り、一番大事なことを教える。

 が、レイズは止まらない。

「かまうな、突撃開始!!」

 目を血走らせ、もはやどちらが悪役なのかわからない勢いで笑い、躊躇いなく実家に魔物の大軍をけしかける。

「あんな家、どうだっていい。止まる必要なんざ、ねぇわ!!」 

 真っ向勝負どころか、とんでもない悪い顔をしたレイズは満足そうに大声で叫んだ。

「ぶつかるー!!」

「ワー!」

「着地に失敗したら死ぬさぞ!」

 悲鳴を上げながら魔物から飛び降りたジークと三人の仲間は、目の前へ迫る壁にぶつからないことを祈るしか出来ない。

「のぉおわぁあーっ!」

 白目を剥いて叫ぶジークは、一瞬だけ走馬灯を見た気がした。

 大地を揺らがせる衝撃と響く轟音、崩れる白い石造りの建物。

 一か所だけ花が咲いていた庭園を避けるように、魔物の群れは突っ込んだ。

 興奮した魔物達の雄叫びに混じってレイズの咆哮が上がる。

「ハッハーッ! かましてやったぜよォ!!」

 一切の減速をする事なくルークの館に突っ込んだ魔物の群れを率いたのは、廃棄処分を命じられた元・ルーク家の序列第四位、レイズウェル・ルークとその仲間たち。

 誰も信じられず、本ばかり読んでいた病弱で大人しかったレイズの、実に清々しい変わりようである。悪い顔のついでに中指まで立てている。

「こちとら、ガキの時から冷静沈着品行方正アルティメットいい子ちゃんを求められてんだ! 呼ばれてねぇけど、来てやったぜ!」

「やめるんだ、レイズ! この調子だとどっちが悪役かわからないんだぞ!」

 辛うじてうまく受け身を取ったジークは、レイズを魔物の群れから引っ張り出してあげた。

 辺りを見渡せば、黒い塊がウゴウゴと近づいて来ている。

 『名もなき赤子』は、壁に頭をぶつけた衝撃で気絶しているようでピクリとも動かないが、付いてきていた小さな魔物は別だ。

「このままじゃ囲まれるぞ!」

 ジークは身動きが取れなくなる前にフィアで魔物を切り進む。

それでも、荒野中を駆けまわって集めてきてしまった魔物の量は半端なものじゃない。

 黒い虫のような魔物が肩に上がって来てしまい、それに気を取られているうちに、次から次へ足を上って来てしまう。

 手で払ってもキリがない状況を開いたのはハツの一言だった。

「おい、こっちから中に入れそうさ!」

 そう言ったハツは、衝突した時に出来た穴を見つけていた。

「わかった! シャオロン、レイズ!」

 ジークはすぐに他の二人を呼んだ。

 魔物をかき分けて来たレイズは、先に中へ入ったハツにより垂らされたロープを握り、崩れかけた壁に足を引っかけて登っていく。

「シャオロン、君もはやく!」

 最後に中へ入ろうと思っていたジークがそう声をかけると、シャオロンは振り返って首を振った。

「行って! こっちは任せてヨ!」

 そう言って手近にいた一匹を掴み、それを武器に殴り飛ばしていく。

 決してロープに近づけないようにと立ち回っている彼は「いってらっしゃい」というように軽く手を振る。

 ジークはまだ何か言いたかったが、ここでグズグズしている時間がない事はわかっていた。

「……ありがとう! 後で会おう!」

 だから、この場を信じて任せ、ロープを伝い先に進む。

 自分が今やるべきことをやるのだ。ジークは自分自身にそう言い聞かせた。

 ジーク達が無事に侵入出来たことを見送ったシャオロンは、ゆっくりと辺りを見渡し、持っていた虫の魔物を投げ捨て、這い上がってきたもう一匹を握りつぶした。

「本当に、人間はいつの時代でも愚かだネェ……」

 乾いた風が吹く荒野は冷たく、魔物と呼ばれる異形が放つ狂気の雄叫びは潰れて濁った悲鳴に変わる。

 月夜に白い龍の影が浮かび、嵐の名を持つ彼は際限なく這い寄る魔物を見下ろし、退屈そうにそう呟きを落とした。