「あれ? そういえば……」
前代未聞の一般民と炎龍王の決闘を控えたジークは張り切り、ど根性を燃やしていたのだがある事に気付く。
「あのフェイロン王と決闘するっていう事は、とんでもない体格差があるんじゃないのかい?」
「あるな」
「ありますわ」
「あるさな」
当然とばかりにレイズ、ケイナ、ハツが口々に答える。
「ジーク様、以前の亜人戦争より前から生きている私達は龍神族の中でも巨大で、本来は人間の街を一飲みするくらいの体躯があります」
ケイナはジークを心配して躊躇いがちに話す。
「そんなのとどうやって戦うんだい……」
「私たちは、ここへ来る時に自身の肉体を人間と同程度の大きさで過ごせるように変化させてきました」
真っ青な顔をしているジークを安心させる為にケイナは微笑んだ。
ここへ来る時、というのは亜人戦争が終わった後なので伝承になるくらい昔のことだ。
「力を捨て、生き残る事を選んだので……今は元の姿に戻る事は出来なくなりつつあります」
「じゃあ、フェイロン王は人型のままでいるって事かい?」
少しだけ安心したジークの表情を見て、頷いたケイナは言う。
「今夜、兄様は種族会議に参加されます。もし、他種族の前で決闘を断れば掟を破る上に面目も潰れるので断れない状況です。そこで決行いたしましょう」
そう言い切った彼女は揺るぎない自信に満ちていた。
「よっし、そうと決まったら特訓だ!」
ジークは自分に気合を入れる為に両頬を叩き、大股でズカズカと仲間の方へ向かうと、キッとハツを見上げ、スィッとリズへ視線を下ろし二人に深く頭を下げた。
「頼む、俺に戦い方を教えて欲しい!」
「ハァン……?」
「?」
ハツは片眉を上げて意外そうに、リズはいつもの無表情のままジッと見つめ返してきた。
「夜まで時間があるなら少しでも戦い方を身に着けたいんだ、頼むよ!」
ジークは、持っていたナイフを取り出すと闘志に燃える目を真っ直ぐ向けた。
相棒の武器であるフィアはいない。だから、これは自分の力で勝たなければならない。
この決闘は絶対に負けられないし、負ける気で挑んだりしない。
「……って言っても、ナイフしかないのは心もとないんだけど……」
フルーツナイフよりマシだが正直、攻撃力はものすごく低い。低すぎる。
どのくらいかと言うと、魚をさばくのにちょうどいいサイズというべきか……あまりのショボさに苦笑いを越えて顔が引きつってしまう。
「はぁ、ナイフ一本で亜人の王と戦おうなんざ、後にも先にもオメェだけさろ」
ハツは気だるげにそう言うと意味深に口の端を吊り上げ、ブーツの内側に縫い付けてあった同じくらいのサイズのナイフを抜き、器用に手のひらで遊ばせ始めた。
「記念すべき第一人者って事かい? 光栄だぞ!」
「来いよ、相手してやるさな」
グッと息を呑んだジークが足に力を込めると砂がジャリ、と音を立てた。
それを合図に飛び出して行った。
先手を取ったのはジークだ、まずは勢いのままハツの懐へナイフを突き立てれば、いとも簡単に刃先でいなされてしまう。
単純な力だけじゃなく受け流されているのだ。
「……ッ!」
ジークは大きく息を吸い、次は脇腹を狙おうと突っ込んだ所で目の前に鋭い先端が入り込む。
反射的に地面に伏せたおかげで、自慢の前髪がちょっとだけ切れただけで済んだ。
「やるからには本気でやるさ!」
気分が高揚しているのか、ハツは興奮して吠える。
「俺様の剣は型なんてねぇ! 気を抜いたら大怪我じゃすまんかもさな!」
「くっ……!」
勢いを付けて振り下ろされた刃をまともに受けたジークは、何とか立ち上がり押し返そうと力を込めた。
今まであまり意識していなかったがハツは強い。豊富な薬の知識でサポートするトリート部隊に居たので衛生兵という印象が濃いけれど、亜人の血が入っている事を引いても間違いなく戦闘センスは高い。
じりじりと圧され始めた所で、一瞬ハツと目が合い、視界の端に彼の左腕が飛び込んで来た。
「顎を打つ!」
その宣言を聞いたジークは傷みと衝撃に備えて歯を食いしばった。
――直後、視界が回転し気付けば仰向けに倒れてしまっていた。
頬に当たる草の葉の感触で、盛大に足払いで転ばされてしまったのだと気付く。
「……」
肩で息をし茫然としているジークの鼻先にナイフの尖端が突きつけられた。
終了の合図だ。苦笑したハツがモサモサの髪をかき上げて言う。
「ほい、一回死んだ。こーいうのに騙されるのもオメェらしいさなぁ……」
緩く軽い口調でそう言ったハツは、地面で仰向けになっているジークへ手を差し出す。
「騙したな……」
ジークは息を整えながら起き上がり、差し出された手を掴むと恨めし気にハツを睨む。
「いつも相手が真っ向から戦うとは限らんさな。課題は何となく見えて来たさし……以上、俺様の授業はここまでさな!」
「ありがとう、何が何だかわかんなかったけど視野を広くしないとな……」
用が済んだらアッサリ去っていくハツ先生に手を振ると、次はリズ先生の番だ。
